多くの方は、小さい頃から「よく噛んで食べなさい」と教えられてきたのではないかと思います。その理由を深く考えたことはないかもしれませんが、実は、よく噛んで食べることにはさまざまな働きがあるのです。そこで今回は、咀嚼が健康にもたらす働きについて詳しく解説します。
食べ物の消化を促す
咀嚼の働きとして、第一に思い浮かぶのは「消化」に関するものではないでしょうか。確かに、食べ物をよく噛むことで、消化酵素が含まれる唾液や消化液の分泌量が増加するため消化されやすくなり、胃腸への負担が軽減されます。
また、口の中で噛んでいるときに魚の骨を発見し、はっとした経験がある方も多いでしょう。よく噛まずに飲み込んでいたら、喉に刺さっていたかもしれません。これは、感覚の敏感な口の前部や舌先に触れることで、食べ物に混入した異物を見つけることができたためです。大げさに言えば、咀嚼がもたらした結果だと言えるでしょう。
虫歯の予防
しっかり咀嚼すると唾液の分泌が盛んになりますが、この唾液には有害な細菌を攻撃する「ペルオキシダーゼ」という酵素が含まれており、口腔内を清潔に保つ作用があります。その結果、虫歯や歯周病などの予防に対して発揮します。
また、唾液に含まれる「パロチン」というホルモンがカルシウムと結合し、歯の表面に少しずつ浸透して強い歯を作る役目を果たします。小さい頃からしっかりと噛んで食べるように教えられてきた理由のひとつだと言えるでしょう。
肥満予防
よく噛んで食べますと、脳内の満腹中枢が働くので食べ過ぎを防ぐことができます。これは、よく噛むことによって自然に食事のペースが遅くなり、血糖値の上昇が緩やかになるので、脳の満腹中枢が刺激され満足感を覚えるというメカニズムによるものです。食べ過ぎを防ぐことで、肥満予防にも働きがあるのです。
また、肥満が予防できると内臓脂肪の減少にもつながり、動脈硬化を促進する糖尿病や高血圧などのリスクを軽減することになります。そして、脳梗塞や心筋梗塞など、命にかかわるような病気を防ぐことにもつながると言えるでしょう。
脳内の活性化
食べ物を噛むときには、噛むための咀嚼筋や、表情を作る表情筋が使われます。つまり、噛む回数が増えるほどに咀嚼筋と表情筋が使われることになり、それによって血行が促進されるのです。血行がよくなると頭部に運ばれる血液の量が増加し、栄養と酸素が十分に供給されるので脳内の活性化に働きがあります。また、歯を支える歯根膜や歯茎、顎自体が感覚として脳を刺激することも、脳の活性化に役立っています。これらは高齢者の認知症予防にもつながっているため、咀嚼回数を増やすためにも、噛みやすく柔らかい食事に偏らないように気を付けましょう。
さらに、咀嚼は空間認知能力のアップにも効果があると言われています。空間認知能力とは、ものの位置や方向、大きさ、形状など、三次元空間に占めている状態や関係を正確に認識する能力のことです。わかりやすく言いますと、旅行などで初めて訪れた場所でも、周りの建物や看板などを覚えることで迷子にならずに元の場所に戻れる能力です。この空間認知能力には脳の海馬が大きく関係しているため、噛むことによって海馬を活性化させることで能力を高めることにつながるというわけです。
がん予防や老化防止
虫歯予防の際にお伝えしたペルオキシターゼには、発がん性物質の作用も抑える働きがあるとされています。
また、体に悪影響を与える活性酸素を抑制する働きも認められています。活性酸素は、体内で発生して細胞を攻撃することで生体機能を低下させるものです。言い替えれば、活性酸素によって血管や筋肉、骨、脳などが酸化すると老化現象が起こります。それが、唾液に含まれるペルオキシターゼによって抑制できるというわけです。
ストレス解消
しっかり噛んで食べるということは、早食いしないということです。ゆっくりと時間をかけて楽しく食事をすることで緊張をほぐし、ストレス解消の効果も期待できるでしょう。
丈夫なあごをつくる
よく噛んで食べますと、上下のあごの骨や顔の筋肉が発達しますので、丈夫なあごを作ることができます。あごが十分に発達していないと歯並びが悪くなったり、運動能力が低下したりなどのリスクがありますので、これも、小さい頃からしっかりと噛んで食べるように教えられてきた理由といえましょう。
まとめ
今回は、咀嚼が健康にもたらす働きについてお伝えしました。よく噛んで食べると消化がよくなるだけでなく、脳にもよい影響があります。また、満腹感を得られることで食べ過ぎ防止にも役立ち、その結果生活習慣病の予防にも作用することをおわかりいただけたでしょうか。ゆっくりと食事に時間をかけることで、日頃のストレス解消にもなりますので、これをきっかけに咀嚼回数を増やすように意識していただきたいものです。