1, ジェネリック医薬品が相次ぐ欠品
持病の薬が値上げも…背景に何が?
1-1 薬局業界に激震
「いつものお薬が手に入らないので、違うメーカーの薬に替えさせてください」
いま、薬局の窓口でこう言われて戸惑っている人が数多くいます。
背景にあるのは、ジェネリック医薬品を中心に薬の供給が不安定になっていること。
欠品や出荷停止などの状態に陥っているのは3000品目以上。
薬局に向けたアンケートでは、“通常通り納品されている”と答えたのは1046軒中、わずか1軒のみという衝撃的な調査結果になっています。
今までこんなことが起きるなんて有り得ないことですし、あってはならないことです。
私たちの身近な薬に何が起きているのでしょうか。
1-2 “ジェネリック医薬品が足りない…”
今までの薬局では当日注文すれば遅くても翌日には届いていたお薬ですが、今では医薬品卸売業者から毎日欠品の連絡がFAXで届きます。
そこには「入荷未定」の文字が。
製薬会社からの医薬品回収や欠品、出荷調整の情報が届き、欠品する薬の種類は日々変化していきます。
1-3 薬局の薬の在庫はどうなっている?
2021年の2月頃から欠品の連絡が届き始め、7月頃には欠品やその恐れがある薬は常に各薬局で20品以上ある状態です。
状況が良くなる気配はなく、ずっとピークが続いています。患者さんにきちんと薬を渡せない不安感を感じつつ、在庫をなんとか手に入れようと医薬品卸売業者に何度も電話する日々が続いている状態です。
医師会でも代替薬の処方を推奨したり、長期処方を控えるように通達が出るほど、いま薬局に薬の在庫が無いのです。
1-4 3000円の負担増 影響は患者に
今、特に在庫が無いのが、ジェネリック医薬品です。
いわゆるジェネリックは、後発医薬品とも呼ばれ、先発医薬品の特許が切れたあとに販売されます。
開発費が低く抑えられるため、先発医薬品に比べて価格が安く、患者の負担が軽減できます。
そして、ジェネリック医薬品の不足の影響で先発医薬品を調剤せざるを得ない状況になり、患者の負担が増えてしまっています。
薬局の在庫が不足したため、代わりに処方されたのは薬価の高い先発薬。
治療を止めるわけにも行かず、3か月のあいだ先発薬に切り替えることになった結果、約3000円負担が増えた患者さんもいました。
2, 『出荷調整』の背景にはいったい何が?
2-1.医療業界で続発する不祥事と政府による薬価引き下げ政策
なぜ、ジェネリック医薬品の供給に支障が起きているのか。その背景にあるのが医薬品メーカーで相次いだ不祥事です。
国が承認していない工程で製造していたなどとして、去年から今年にかけて福井県の小林化工と富山県の日医工が国や県から立ち入り調査や業務停止命令を受けました。
日医工はジェネリック医薬品の製造では大手といわれるメーカーです。
2-2 製薬業界を巡る不祥事は起きるべくして起きた!
昨年12月、睡眠導入剤が誤って混入した「爪水虫の薬」を服用した後に70代の男女2人が死亡。15人が自動車・転倒事故等に遭ったとする事件が起きた。
中堅医薬品メーカー・小林化工が製造販売する経口抗真菌剤【イトラコナゾール錠50「MEEK」】を巡るこの事件は、当時大きく報じられましたが、これは同社の若い社員が夜中に「ワンオペ」で作業していたところ、同じ棚の睡眠薬の原料を誤って混入させてしまったことが原因でした。
医薬品の製造管理と品質管理に関する基準(GMP)に照らすと、この薬の製造は原則2人で行うことが明記されているため、明らかなルール違反に当たります。
ですが、この事件は見方を変えると、経費削減でギリギリまで追い詰められた製薬業界で、起きるべくして起きた悲劇とも言えるのです。
厚生労働省は医療費削減に躍起になり、薬価をどんどん下げていっています。
そのため、製薬メーカーはつくっても、つくっても儲けは出ない。ですが、薬を安定供給しなければ多くの人の生命にも関わる事態になります。
製薬会社としての社会的責任を全うしようとするあまり、やむなく「ワンオペ」の作業を黙認してきた苦渋の思いが垣間見えるのではないでしょうか。
2-3 自主点検で広がる出荷調整
さらに、不祥事が明らかになったあとに摘発の流れが広がりました。
業界団体が呼びかけた自主点検では、別の複数のメーカーでも問題が見つかるなどしたため、自主回収や供給停止、出荷調整になったのは、実に3000品目以上のジェネリック医薬品に及んでいます。
医薬品の製造を止め、「販売中止」になってしまった医薬品すら存在します。
そのため、゛発注できない”、゛薬が届かない”など薬の入手困難を訴える薬局が9割を超える事態となっているのです。
2-4 コロナによる原料調達困難
欠品や出荷調整は新型コロナも影響しています。
薬の製造には有効成分となる「原薬」が必要で、ジェネリック医薬品の約半分はインドや中国など海外から輸入した原薬を使っています。
しかし、感染拡大に伴って海外の工場の操業が止まったり、航空便が減少したりして原薬の輸入が滞る事態になりました。
そのため、日本の製薬企業の工場では薬を作りたくても作れない状況も続いているのです。
まとめ
日医工が供給止まれば、サワイで。サワイが滞ればトーワで。と全国の薬局で取り合いが起き、注文集中・需要過多になり、供給制限がかかるのは当然のこと。
厚生労働省は薬価削減でメーカーが安全確保に資金投入できなくなるほど追い詰めて、製薬会社での不祥事を誘発する結果にもなります。
そして、その不祥事を皮切りに、医薬品の出荷停止・制限がかかり、安定供給にひずみが生まれます。
コロナが落ち着き、原料が手に入りやすくなるのも、メーカーが安定供給するために製造ラインを見直すのも、どちらを待つにせよ、少なくとも2年~3年はかかります。
政府による強引な薬価の引き下げ政策は、薬の安全性も、安定供給も蔑ろ(ないがしろ)にするものなのです。