睡眠の量と質の低下によって高まる病気のリスクとその具体例

睡眠の量と質の低下によって高まる病気のリスクとその具体例
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睡眠の役割といえば、起きている間の身体の疲れを癒し、次の日の活動のためのエネルギーを蓄えるためのものだと思っている人が多いでしょう。しかし睡眠は、疲労回復だけではなく、身体の健康を維持するための重要な枠割を担っています。そのため、睡眠不足や睡眠障害によって、その役割を果たすことができずに病気になるリスクが高まることもあります。睡眠不足などによって起こる病気には、どのようなものがあるのでしょうか。

 

1.睡眠不足や睡眠障害はなぜ心身に影響を与えるのか

現代の日本人は、世界的に見ても睡眠時間が少なく、慢性的な睡眠不足に陥っている人もたくさんいらっしゃるでしょう。長時間の労働や、仕事と家事や育児との両立のために睡眠時間を削ったり、労働時間のシフトによって夜勤に入るために睡眠時間が不規則になったりと、睡眠時間や睡眠のサイクルにも問題を抱えている人々も見受けられます。

 

睡眠不足や睡眠サイクルの乱れによって引き起こされるものは、眠気との闘いだけではありません。本来睡眠によって得られるはずの心と身体の健康な状態は、睡眠の量や質の低下によって保つことが難しくなります。

 

それでは、私たちの健康のために重要な睡眠の役割とはどのようなものでしょうか。そして、睡眠の質の低下によって心と体にはどのような影響が与えられるのでしょうか。具体的にご説明しましょう。

 

1-1.心身の健康を保つために重要な睡眠の役割

睡眠の主な役割は、1日の疲れを癒して、次の日の活動のためのエネルギーを蓄えるというものですが、それだけではなく、眠っている間に体の健康を保つための様々な働きを行っています。

 

まず1つ目は、脳の休息と記憶の整理や定着です。脳は睡眠中にも活発に変化を繰り返し、脳幹を休ませたり活動したりしています。脳が休息している睡眠状態をノンレム睡眠と呼び、脳が活動している睡眠状態をレム睡眠と呼びます。

 

レム睡眠時には、起きていた間に入ってきた情報をまとめたり整理したりして、記憶として定着するための活動を行っています。私たちが夢を見るのは、脳が活動を行っている、このレム睡眠中です。日常の中で必要な思考活動は、実は睡眠によって保たれているといえるでしょう。

 

2つ目は、内臓や筋肉のメンテナンスです。昔から「寝る子は育つ」といわれますが、睡眠中に成長ホルモンの働きが活発になり、成長期の子どもの身長が伸びたり体重が増加したりして身体の成長が促されます。

 

この成長ホルモンが睡眠中に働くのは、子どもだけではありません。大人でも成長ホルモンの働きによって、身体の新陳代謝が行われます。日々細胞が生まれ変わって内臓や筋肉の傷みが修復され、痛みや不調が取り除かれるのは、この働きによるものです。美肌を保つための皮膚組織のターンオ-バーも睡眠中に行われています。

 

そして3つ目は、免疫機能の維持や増強です。免疫とは、体の中に病気を引き起こすウイルスが入ってきたときにその菌と戦って病気の発症を抑制する働きです。この免疫システムには、白血球などの組織や細胞が含まれ、眠っている間に強められます。

 

1-2.睡眠不足や睡眠障害が身体に与える影響

私たちの脳と身体は、睡眠によって健康を保つための働きが行われていることが分かってきました。それでは、そのような大切な働きを持つ睡眠が不足したり、質の良い睡眠が得られなかったりしたら、どうなるのでしょうか。

 

まずは、睡眠中に重要な活動を行っている脳の機能が低下し、認知面での障害が起きやすくなります。睡眠中には脳は休息のほか、情報の整理など、盛りだくさんの働きをしなければならないのですが、時間が不足することで、その働きが十分に行われず、思考力が低下したり、記憶力が鈍くなったりします。

 

睡眠のサイクルによっては、脳が休息できないまま起きなければならないため、脳の疲労が蓄積して脳疾患にかかりやすくなる場合もあります。

 

また、身体の代謝を行う時間が足りないために、内臓や筋肉の傷みや疲労が十分に回復できず、その状態が長く続くことによって、身体の不調が慢性化することにもなりかねません。

 

さらに、免疫機能が低下するため、蓄積した疲労もわざわいしてウイルスなどに対する抵抗力が下がり、感染症などの病気を発症しやすくなります。

 

これらの症状が出てくる原因は、睡眠不足だけではありません。不規則な生活によって睡眠のリズムが崩れたり、ストレスを抱えていたりすると、身体は眠っていても脳の休息不足や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害になることもあります。

 

また、カフェインやアルコール、ニコチンの摂取や不適切な環境での睡眠などのため、睡眠時間は確保していても、睡眠の質が低下していると睡眠本来の役割が十分に果たされず、健康を保つのが難しくなってしまいます。

 

2.睡眠不足や睡眠障害が原因でかかりやすい病気

必要な睡眠の量や質が確保されないと、身体や脳が十分な休息を得られず、回復できない疲労や不調が蓄積して病気になりやすい体になってしまいます。睡眠不足や睡眠障害によってかかりやすい病気にはどのようなものがあるのでしょうか。

 

2-1.生活習慣病

十分な睡眠が確保されないと、食欲を抑える機能が低下し、反対に食欲を増進させる機能が働くようになります。その結果、空腹感が増すために食べ過ぎの状態になり、肥満になってしまいます。

 

肥満になると、糖尿病や高血圧症、高脂質症などの生活習慣病にかかりやすくなります。また、睡眠障害を引き起こす睡眠時無呼吸症候群も肥満の人がかかりやすい病気です。

 

睡眠時間が短い人は、夕食の後にも起きている時間が長いため、夜中にお腹がすいてついつい食べてしまいがちですが、そのような生活習慣を続けることも肥満の原因となり、病気のリスクが高まります。

 

2-2.睡眠不足がもたらす心の病気

睡眠が不足すると、前日の疲労を引きずったままの状態になり、精神的なストレスもたまりやすくなります。その状態が長引けば、心の安定を欠いてイライラしやすくなり、他者との良好な人間関係を築くのが難しくなります。思考力や判断力なども低下し、仕事の効率も悪くなります。

 

そのような精神的に不安定な状態が続けば、ストレスがたまりやすくなり、うつ病などの精神的な病気を発症するリスクも高まります。

 

また、睡眠の重要な役割である脳のメンテナンスが十分に行われないことから、認知症を発症するリスクも高いことが近年の研究で分かってきました。特にアルツハイマー型認知症は、脳内に「β(ベータ)アミロイド」というたんぱく質が脳にたまって、脳の神経細胞を破壊することで発症します。

 

このβアミロイドは、日中にたまったものが睡眠中に処理されますが、睡眠時間が不十分であれば、処理しきれずに脳内に増えていき、アルツハイマー病発症のリスクが高まります。

 

2-3.命にかかわる病気のリスクも

前項でお伝えした通り、睡眠不足は免疫機能の低下をもたらすため、感染症発症のリスクが高まります。そのリスクによって風邪やインフルエンザなどの流行性の病気にかかりやすいだけでなく、場合によっては命にかかわる病気になってしまう可能性も高まります。

 

大きな病気ときいて多くの人が思い浮かべるのは、やはり「がん」でしょう。がんは、遺伝子が変異してがん細胞になり、それが細胞分裂を繰り返すことで徐々に大きくなっていく病気ですが、人間の身体に備わった免疫機能には、このがんを抑制する働きもあります。しかし、睡眠不足によってこの免疫機能が低下すれば、がんの増殖を抑制できなくなり、病気の進行を早めてしまいます。

 

3.まとめ

睡眠は、心身の疲労の回復だけではなく、病気のリスクから心身を守り、健康な生活を維持するために重要な役割を担っていることが分かりました。しかし、睡眠の質や時間が不十分であれ場、その役割を果たすことができません。毎日の生活を見直して、心と身体が健康な状態を保つための睡眠が確保できるように心がけましょう。

 

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